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「帰るか、離婚か?」家出するおじさんの胸中、密着ドキュメント
“いい大人が”と非難されるかもしれない。しかし今、妻子持ちで稼ぎもある中年男性の家出が増えている。別居や離婚ではなく、なぜ彼らは家を飛び出したのか。家出経験者や、家を出たまま自宅に帰っていない中年男性を直撃。その胸中に迫る。
▼CASE1:水沢良行さん(仮名・38歳)
妻と6歳の娘があり、ホテルマンとして働く水沢良行さんは、仕事と家事・育児両立のストレスから精神的に追い詰められ、’19年の6月、2週間に及ぶ家出をした。
「家では育児と家事に追われ、職場ではお客さまのクレーム処理で7時間近くの残業が当たり前。3年前に妻が職場復帰してからずっとそんな生活です。共働きなので家庭のあれこれは分担していますが、僕が完璧主義な性分だからか、神経は張り詰め、些細なことですぐキレるようになっていました。そんなある日、喧嘩の勢いで妻に手を上げてしまったんです。それでも怒りが収まらず、娘の前で玩具を蹴って壊してしまいました」
むせび泣く妻と泣きじゃくる娘。水沢さんは逃げるように家を飛び出し、近くの公園まで走った。
「虐待やDVなどで家族に危害を加えるよりマシだと、そのままビジネスホテルに向かいました。『しばらく帰らない』と妻にLINEを送りましたが返事はなく、僕もその一通しか送っていません」
ホテルに1週間滞在した後、金銭的に厳しくなり、残りの1週間を漫画喫茶で過ごした。「一人になれて心が軽くなりました」と言うように、働きアリとイクメンという、社会が男性に求める圧力に水沢さんは苦しめられていたようだ。妻子の元に戻った後に訪れた病院では、うつ病と診断された。仕事のストレスや家族に手を上げた自分への失望感が原因らしい。
「家族への後ろめたさや、また家族に暴力を振るうのではという不安もありますが、それでも家庭を守りたいという強い思いが芽生えたので戻ることにしました」
現在も定期的に通院し、薬を服用している。
「いつ職場をクビになるか。先の見えない未来が辛い」と、うつろな表情の水沢さん。
「もう二度と家出をしないと誓えたらなあ」と、水沢さんはため息交じりにつぶやいた。
▼CASE2:小久保隆行さん(仮名・46歳)
11歳の長男があり、食品卸売会社で部長を務める小久保隆行さん。’17年10月の転職を機に妻の実家で義父母との同居生活をスタートさせた。しかし、’19年の2月末に息子を連れて家を出たきり、自宅にはいまだ戻っていない。
「過干渉な義母とはもともと相性が悪く、義父が仲裁役をかってくれたおかげで何とかやっていけてました。ですが、その義父が2年前に急逝。以降、『ハムスター以下の存在』『話すとバカがうつる』など、義母から連日罵声を浴びせられるように。私にだけならまだしも、息子に私の悪口を言い始め、ついには『私の家だから出ていけ』と敵対心を露わにしだしたんです」
そこで長男を連れて家出。短期賃貸マンションに身を寄せた。
「息子には妻から連絡があったようですが、私にはなかったのでこちらからは連絡していません。義母との険悪な日々から解放され、息子と笑い合う日が増えました」
1か月がたち、義母も反省しているだろうと思い、家に戻るつもりだったが、「義母と一緒は嫌だ」と息子が涙目で訴えてきた。
「妻に転居を提案しましたが、義母への私の態度が気に食わず同居を拒まれました。妻と息子は仲良しなので、週末は私が借りている実家近くのマンションに来て、家族で過ごすことが多いですね」
息子との2人生活がすでに1年近く続いている。
「家事・育児の厳しさを知り、妻に優しさを抱けるようになりました。また、私もこの年で再婚相手が見つかる保証はないので離婚は考えていません。むしろ、一緒に暮らしたいですね。でも、息子が私立中学に通うとなると、学費の面などから義母と同居することになるかもしれません」
小久保さんの胸中は複雑だ。
「家出をして妻の気苦労が身に沁みます。今は息子と2人で住んでいますが、いつでも家族全員で住めるように4DKの部屋を借りました」
小久保さんの願い、いつか叶ってほしい。
▼CASE3:高野彰浩さん(仮名・41歳)
2人の息子がある高野彰浩さんにとって、短期間のプチ家出は精神安定剤の役割を果たしている。
「2年前に長男が幼稚園に通い始めたのを機に、妻のしつけが急に厳しくなりました。それ自体は子供の将来に関わるので歓迎していますが、嫁が少しヒステリー気味なのもあって、子供が言うことを聞かないと暴言を吐くんです」
高野さんに直接苛立ちをぶつけることはほとんどないという。
「平日は会社勤めに励み、週末は家族で和やかにと願っても、妻の刺々しい言葉を聞くだけで気持ちが塞ぎ、胃がキリキリと痛みます」
今では曜日に関係なく、月に1回、何も言わずに2日~3日間のプチ家出を繰り返している。
「お小遣い制なので金欠のときは、漫画喫茶やファミリーレストランのドリンクバーで朝までいることが多いです。もともと干渉しない妻なので謝れば済みます。子供にかまわず、わがままな現実逃避だとわかってはいますが、家出は私の精神の調整弁なんです」
自分を守るためにも、家出をやめるつもりはないという。
警視庁の「平成30年における行方不明者の状況」によると、ここ10年間の行方不明者数は男性5万人台でほぼ横ばい。理由別では「病気」「家庭」「仕事」が全体の5割以上を占め、「病気」が急増している。
恋人・夫婦仲相談所所長の三松真由美氏は「男性の行方不明者数は女性の約1.8倍。私の相談所でも、夫の家出に悩む妻からの相談は増えています」と話す。
「CASE1の水沢さんのようにギリギリまでストレスを溜め込み、爆発して家出はよくあるケース。また、子供に高望みする妻は教育費にお金をかけたがるので、『私が働かなかったら子供の塾代が足りない』『残業しても給与は上がらない』など、夫のプライドをへし折る言葉を平気で言います。CASE3の高野さん同様、妻のいる家に帰りたくない“帰宅拒否症候群”に陥って家出を繰り返す男性も少なくありません」
理想の高い女性と結婚した繊細な男性は、家出予備軍とも言える。対して「生きづらさと男性の家出は無関係とは言い切れない」とは、社会学者の筒井淳也氏だ。
「男性に“一家の大黒柱”を求める価値観が根強く残る日本では、稼がなければというプレッシャーが男性に重くのしかかっています。加えて近年、家事・育児も男性の役割という考え方が浸透してきた結果、自宅が“第二の職場”となり息苦しさを感じる男性も。さらに、“家”はお金があれば存続・機能するので、一度家庭不和に陥ると、妻にとって夫は厄介者に近い。関係修復力の低い男性だと、居場所を失い、その孤立感から家出に走ることもあるでしょうね」
家族に無断で家を空けるのは許されることではない。だが、「問題の根本的解決にはならないが、虐待やDVへの防御策や自身のガス抜きになるなら家出は最悪の選択肢でもない」と筒井氏は指摘。“心の自衛”によるオジサンの家出は、誰かを救ってもいるのだ。
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